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蝋梅−2023 花ブログ・ベーテル2023/02/23

 公園なるものはよく仕組まれている。素人もその様に感心するもので、老舗、つまりは推知をぎっしり詰め込んだ当時の職芸の粋を享しめる。

 当方は散歩を兼ねて、その居所を定めて必ず通りすがることにしていた一つであった。そこでのことだ。黒い長ソックスの群青色のワンピースを纏った少女が一所懸命、低木の根元辺りを、私のものよと言わんばかりに、丁度ドングリの実を拾うような仕草で、何かを探している。一緒に拾おうよというような誘いはないほど、一心不乱の風情だ。左掌から転びおちないようにしているよと伝わってくる。ああ、これは彼女のものなのだ。そひて、彼女の声が聞き取れてしまった。「一杯集めたら、お母さまが喜ぶかな」と。

狭い視野にある当方は、三度目の同じ文句に、思わず「きっと喜ぶよ」と事もあろうに声をかけてしまった。

 時代は全て関せずの世。ふと、左横45度、両眼を移せば、父親であろう男性の後ろ姿と、背丈から妹君であろう同じく後ろ姿の小さい少女が見える。その時に、彼らお二人は「お母さまが喜ぶかな」という繰り返しの言葉には身動ぎを示さない。聞こえないのかな。

 彼女は何度もつぶやき、余分な返事をした当方の言葉にも身動ぎもせず、木元に散らばる落花を拾い集めているようだ。少女の掌の中は見えない。

 その花は、佇みおりて手繰れば香ってくる黄色の梅の花だ。しばし、佇む。が、這いつくばるほどの祈りは、当方には、その時を持ち合わせていない。

 まだ当方は花に透き通るものを観たことがない。

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