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今週のこの1冊202104−03(20) フクシマ第一原発メルトダウン逃避行中に亡くなられたベーテルの患者さんたちの無念を想う−3.112011フクシマ連稿19 原発事故は“検証”されたのか

2021/04/25
今週のこの12021040320

 

フクシマ第一原発メルトダウン逃避行中に亡くなられたベーテルの患者さんたちの無念を想う−3.112011フクシマ連稿19

 

原発事故は“検証”されたのか

 

−国会事故調からも政府事故調からも検証継続の重要性は指摘されていた.規制委員会が手をとめたままである一方で、新潟県の取り組みの継続が注目される.−

 

科学.20188月号、第88巻第8号.岩沼書店、東京.1333

 

 日本学術会議が2014911日に開催したシンポジウムに基づく提言書「科学不信の時代を問う−フクシマ原発の災害後の科学と社会―」(合同出版)に繋がる一連の論考集、この場合、岩波書店の月間ジャーナル「科学」の20188月号だ。「科学」もゲンパツを丁寧に追跡している。

 いずれ原子力科学は工学分野であるという大前提がある。物作り学問である。だから、惑星探査機などのような素晴らしい成果で人の目を見張らせ、耳驚かすことができる。どの分野の学問も成果としていずれモノとなれるが、ゲンパツの場合はつくればよいものではない。例えでは兵器産業と繋がるモノが分かりやすいが、国民には手が出ないし声も出せない。ゲンパツはしかも、つくったものを処分するとか整理し廃棄するという工学目標をもちあわせない。

 池内了は言う。そもそもゲンパツは試行錯誤できる技術ではない。電源喪失が起きればお手上げで、放射性物質がいったん放出されれば回収し制御し無害化するというアトワザ技術を持っていない、つまり後始末がないという、ゲンパツ固有の特異な特徴がある。ゲンパツはやり直しがきかない欠陥技術だ、と。当方には専門的すぎるので資料の一部にも近づけないが、日本のゲンパツは自主開発の努力をせずに既存の技術を導入してしまう国策となった経過があり、基礎実験から開始すべきと主張する物理系の研究者が手を引いていなくなってしまった取り返しのつかない苦い歴史があるという指摘はあらためて目新しい。

現在の日本の不幸を一つは、三密に隣接する美浜、高浜、大飯の場合などは連鎖的に事故が起こりえる、というあって然るべき想定が全くなされていないことで語れる。二つは、2012年に政府事故調・国会事故調が報告書を出したに関わらず、原子力規制委員会(旧保安院)なるものに化けてしまい、フクシマの具体的な中身が検討されることがなくなったことで説明できる。

科学は分厚くはない雑誌だが、素人にはそうだったのかと得心できる情報がいくつもある。貞観地震を想定したゲンパツの安全確認は東京電力も東北電力も美事に参考扱いとして、津波の波高も耐震対策も安上がりとした。保安院の対応は電力会社と組み、半ば「毒を食わば皿まで」を貫いている。これは言わば、決してゲンパツを止めないという意思表示に過ぎない政策を続いているという単純な事態とみれば、何の苦もないことだ。ゲンパツを続けることだけが国の本心だ。

東京大学地震研究所教授の纐纈一起は、地震動の想定で議論すべきことという素っ気なさ過ぎの論考で、一に科学に基づく想定に問題があることが熊本地震で分かったこと、二に福井地裁の一審判決にある「科学を超えることが起こる可能性」がり、科学は証明もできなければ否定もできないと言い切っている。

結論はこうなる。フクシマは「国民一人一人、あるいは事業を行う方、それを許可するかたが決断すべき問題である」となる。

「科学」という雑誌は1931年の創刊である。50年前の1968年の第8号の巻頭は「再び“良い医師を得るために”」だったそうな。

Drソガ、COVID-19災禍のため未了)

 

<目次>

原発事故検証の考え方とは.0788-0791

 池内 了(新潟原子力発電所事故に関する検証総括員会委員長.総合研究大学院名誉教授、名古屋大学名誉教授)

原発事故賠償をあらためて検証する−被害者集団訴訟の取り組みに着目して−.0792-0797

 除元理司(大阪市立大学教授)

津波対策を先送りしたのは誰か−開示文書から“根本原因”に迫る−.07980803

 添田孝史(科学ジャーナリスト)

地震動の想定で議論すべきこと

 纐纈一起(東京大学地震研究所)

新潟県の検証継続は維持されたが・・・・・・−問われる木瀬委員会の姿勢、拭えない東京電力の「適格性」への疑念−.08060811

田中三彦(科学ジャーナリスト)

原発「経済」神話の崩壊―保険に映った虚像と手に負えない現実−.08120818

 本間照光(青山学院大学名誉教授)

甲状腺がんの検証は継続されなければならない.08190823

 木村真三(獨協医科大学国際疫学研究室福島分室長、准教授)

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(科学者の社会的責任7)

 藤垣裕子(07820787頁)

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 佐藤 暁(原子力情報コンサルタント)