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今週のこの1冊―特別寄贈精神医学書2021−2(2) カタトニー論文集 −精神医学の古典逍遙−

2021/02/16


今週のこの1冊―特別寄贈精神医学書2021−2(2)

カタトニー論文集

−精神医学の古典逍遙−

 

鈴木一正訳、ガボール・S・ユングヴァリ編.2021118日発行.152212頁、星和書店、東京. 4500.

 

 何と嬉しいことに、鈴木一正先生からご本を頂戴した。鈴木一正先生とは、二十数年前に大学精神科から派遣されベーテルの診療を援助してくれた方だ。そのDr鈴木がこの数年間、再び外来診療を手助けしてくれていて当方を延命させている。ベーテルにとってDr大堀、Dr佐野に継いで第三の恩人ドクターである。

Dr鈴木はピアノを嗜まれ稽古を怠らない。居合わせたスタッフは聴き惚れる。冬はピアノがある三階体育館は冷え込むので、晩方、早朝の二度の練習は寒かろう。この指慣らしを密かに、名演奏の時間、と呼ぶ。ピアニストとは何か、で言えば、ピアニストはピアノを持ち歩くことができない、が一つの答えだ。ベーテルのピアノ二つは由緒ありて皆がこよなく愛してきたものだが、よく弾き込まれた少しだけ大きいのを備えられたらと思う。

 さて、Dr鈴木は2007年に「カタトニアー臨床医のための診断・治療ガイド」を出版なさっているので、今回の書名からはカタトニア論議に関する古典の神髄を究める、優雅な逍遙となる。この本は朝日新聞の第1面の学術図書広告にも紹介された。Dr鈴木が多忙な診療の合間にカタトニーに関する古典論文集の翻訳に相当の時間と手間暇を注いでおられた。例えばドイツ精神医学の古典を紹介した書籍が幾つもあるようだ。カタトニーを学ぶに珠玉の一冊となる。精神科医が相手にするカタトニー中核群はベーテルの診療対象外だが、症状としてはてんかん医学からも魅力的なテーマの一つだ。その昔、福島での東北てんかん研究会に一緒に車で出かけた記憶がある。発表演題は発作性昏迷だったはずだ。目通ししながら、医学生時代から抄読会含めて夢中になって一文いちぶんを読みこなそうとしたカール・ヤスペルスやクルト・シュナイダーの精神病理学の成書に対面しているような(幸福感情に衝き上げられた不思議な満足状態なのだが)、数十年ぶりの懐かしい錯視に襲われた。久方ぶりにその世界に舞い戻った気分だ。徹底した記述主義が原則だ。あとがきから、Dr鈴木は英語、ドイツ語に加えてフランス語まで嗜むことを知った。

Dr鈴木は、精神医療の世界にいると、てんかん診療が勉強になるんですと仰った。当方がベーテルを開設して真っ先に認識を改めたのは、精神科医はてんかん医療に興味と関心をもはや全く示さなくなっていたことだった。一方、患者さん方の半分は精神科の先生方に診てもらえたらと希っているのだが。その意味含めて、Dr鈴木はベーテルに欠かせない有り難い先生なのだ。ありがとう。 (Drソガ)