2021/02/01
今週のこの1冊202102−01(10)
フクシマ第一原発メルトダウン逃避行中に亡くなられたベーテルの患者さんたちの無念を想う−3.112011フクシマ連稿2
原発は終わった
筒井哲郎著.2017年12月20日発行. 264頁、緑風出版、東京. 2400円.
目次をタイプするのがこんなに楽しいこととは初めて知った。1941年生の著者の息づかいを感ずる。本を読むに教わったのは、各章各節毎、段落ごとにその頭に①、②、③...と鉛筆で数字を書いて行くことであった。異なる分野、特に若者が初めて手にする哲学書では、何故か読破した、踏破したような気分が欲しかった。今回はまだ内容は知らずながらで、目次を打つと懐かしい言葉が非常に多いのに気づいた。例えば、労働疎外!、延命の弊害、悲劇などなかった、などだ。目次の流れもよい。目新しい表現、想定外の繰り返し、都合よく世論操作のための感情的な言葉となる戦争の想定などは、この悪夢の十年そのものを予感させる。また、「自傷労働の契約」や「迷惑産業」(迷惑政府!)は当方には魅力的な面白い言葉だ。自らも含めて含蓄豊かだら、これから乱用しそうだ。目次からの結論:世の中は作話だ。擬制の終焉と呼ぶがふさわしいならば尚更だ。ブックカヴァーは「プラント技術者の観点から、産業としての原発を技術的・社会的側面から分析し、電力供給の代替手段がないわけではないのに、甚大なリスクを冒して国土の半ばを不住の地にしかねない手段に固執する政策の愚かさを説く」とした。分厚い本ではなく、しかも軽快な語り口なので、是非お目通しあれ。
さてはて、最も目を引いたのは178頁、表5−2:原発を断った町(例)で34市町村の名がある(1963−1992)(前回紹介で触れた「原子力総合年表」にあれば嬉しい。中古本だが入手できた)。これは初耳だ。エッ、いわゆる甘い汁を吸わなかった町がこの日本にこんなにあるって。ということは、私たちは何も知らない国民なのだ、となる。知らされなかったならば、民には遂にくだんの責は全くないとなる。
(Drソガ)
<目次>
まえがき
第1章発電産業の世代交代
1 原子力ルネッサンスから東芝解体へ
2 世界の原発産業の衰退
3 再生可能エネルギーへの潮流
4 ガラパゴスの原子力政策
第2章 平時の原子力開発は成り立たない
1 基本設計を輸入し続けた原発業界
2 日本の原子力開発の実例
3 高速増殖炉<常陽>の再稼働
4 マンハッタン計画に見る戦時原子力開発
5 原子力プラントの本質
第3章 遺伝子を痛める産業
1 逃げてはいけない被ばく労働者
2 被ばく現場の労働疎外
3 事故現場作業員の危険手当
4 有期・不定形・自傷労働の契約形態
5 「リクビダートル」が語るチェルノブイリの処遇
第4章 事故現場の後始末をどうするか
1 汚染水対策と凍土壁
2 「中長期ロードマップ」の現状
3 100年以上隔離保管後の後始末
4 廃炉のための「人材育成」はいらない
5 ゾンビ企業延命の弊害
第5章 迷惑産業と地域社会
1 迷惑産業の特異な性格
2 償いはどうしたら可能か
3 原発避難てんでんこ
4 被災者の生活再建
5 原発進出を断った町
第6章 定見のない原子力規制
1 自然災害における「想定外」の繰り返し
2 内部リスクの軽視
3 過酷事故の人間側シークエンス
4 武力攻撃・「テロ」対策と戦争の想定
5 「白抜き」「黒塗り」で守るガラパゴス技術
第7章 悲劇などなかったかのように
1 廃炉技術の意見募集
2<コミュタウン福島>の空虚
3 廃炉シンポジウムに見る現状肯定へのアピール
4 飯館村の「復興」
5 被ばくと引き換えの町づくり
終章